芸術の秋、残暑に飽き
9/18(日) 晴れ(33度。中野)

今月から美人画特集に会期が変わったので、シルバーウィークとくになにをするわけでもないから河鍋暁斎記念美術館に行く。
ただ、いつものウィットに富んだ画風とは異なり、きわめてオーソドックスな美人画ゆえ、全部見終わるのに一時間かからなかった。普段は一枚一枚、それこそ穴が開くほど眺めて「すごいなあ。おもしろいなあ」と感嘆するのだけど、美人画はそのほとんどが左斜め前を向いた、まるでフォーマットがあるかの如く同じアングルばかり。
いや、ひょっとしたら幕末から明治にかけての美人画にはフォーマットがあったのかもしれない。
暁斎の場合、美人画の隣にガイコツや鬼といった人外をおくのだけど、これがいつものタッチ。
第二展示場最後に飾ってあった「文を読む美人」の横には、あまりの美しさにそれこそ飛び上がらんとばかりに驚く郵便夫が描かれているのだけど、これがやはりいつものタッチ。表情豊かなのは言うに及ばず、コミカルでポーズが巧みで、躍動感がある。でも手前の美人は他のと同じ。

暁斎ほどの筆致を持つなら、きっとより写実的な美人も描けたに違いない。
しかしそれは描かない。
個性を出す部分は着物の模様(カッパとかタコとかコミカルすぎる)。

当時の流行を取り入れて、それ以外は捨てていたに違いない。
男性は狩野派のようなやや写実系に触れたデッサンのものもあるし、ポーズを含めもっと生々しい。
動物などは明らかに他の絵師よりも忠実にシルエットやディテールが再現されている。その上で擬人化しているのだから、もう達人としかいいようがない。
だから暁斎の目には、当時の美人たちも残されている美人画とは異なった形で写っていたに違いない。
でもそれは描いていない。
いや、写生帳にはひょっとすると残っているかもしれないけど、少なくとも完品として公開されているものに、いわゆる美人画のタッチ以外の女性は見たことがない。

例えば、80年代、90年代、そして00年代に流行ったアニメの絵がある。
まんがは個性が出すぎるため、あえて流行ものに敏感なアニメとしたのだけど、これが一目見て形の捉え方、塗り方が顕著に異なる。
当時は主流でも時代が変わるととたんに「古く」感じる。

当たり前だけど、21世紀の日本で幕末、明治の美人画の画法で描かれたものが出てきても「うわあ、なんか浮世絵みたい」と言われるのがオチ。
ようは流行だったと。
商業絵師としては「売れなければ飯は食えない」から、流行をおさえる。
でも動物ものには流行廃りがないから、今見てもとても新鮮。
ようは暁斎本来のタッチなのだろう。

実は美人画がそれほどぐっと来なかったので、その足で板橋区立美術館で「江戸文化シリーズ 実況中継EDO」を見てきたのだけど、そこの解説にちょうど僕の疑問に答えてくれるような記述があった。
今回の展示物は「スケッチと真景図」で、いわゆる江戸期の絵師が写実的に描いたもの。
草木や動物は、まるで図鑑に載っているような精密さで写生されていて、藩によっては博物館学として集められたそうで。
動植物が好きで、その図版を集めさせた殿様がいたのかと思うと(それも前田とか松平とか、よく聞く名字の方々)なんだかとても親近感を感じる。時代劇の影響で殿様はバカか無茶か非道のイメージだったけど、博識を求める文化人もいたのね。妙にうれしい。
で、特に風景は真景図と呼ばれる写実的に景色を描く手法で、江戸の景色をパノラマ調に描いているのだけど、欧州のような写真のごとき風景画になっていない。
スケッチでは写実的なのに、いざ完成形になると当時の手法に落とし込まれていく。
この説明文に、暁斎の美人画がピタリと当てはまったわけ。

写真のようなものは求められてなかった、と。

逆に博物としての動植物には一切の妥協が無く、忠実に筆で再現されている。
そんな中、とにかく目をひいたのが「小田野直武 鷺図」だった。
西洋画に影響を受け、日本の画材で向こうのタッチを再現している。
ものすごく重厚なタッチで、掛け軸に描かれているが妙にミスマッチ。
年代を隠してしまえば「あぁ、最近の画家のものでしょ」と言われても気付かない。
どうやら秋田蘭画という新たなジャンルの祖となったそうで、展示物の中でひときわ異質だった。

そして真景図の真骨頂、伊能忠敬の日本地図。
これ、衛星写真じゃないの?と思うほどの正確さ。畳二畳分くらいの大きさで日本を三つに分けて描かれているのだけど、宿場町もしくは地名がとにかく事細かに書き記されていて圧巻。
文字があまりに細かいので、展示物からは読み取ることができないが、入り口でスコープを借りれば大丈夫(これを知らなくてアンケートに「双眼鏡みたいなものがあった方がいいですよ」と書いてしまった…。スコープを借りる際に受け付けの方に「すいません、アンケートに書いちゃったんですけど無視してください」と詫びておいた。別に怒り心頭で書いたのではないのだけど、なんとなくばつが悪くて)。
ふと気付いたのは、湖は琵琶湖、浜名湖、猪苗代湖、八郎潟くらいしか無いこと。関東ではかなり広大な霞ヶ浦も富士五湖もない。ようは地図に記されている湖は当時栄えたエリアにあるから測量されたのであって、たいして重要じゃない部分ではオミットしたようだ。
それにしても八丈島や北方領土、対馬まで地図に描かれているのだから恐れ入る。
海を隔ててどうやって距離を測ったのか。伊能忠敬、恐るべし!
とにかくその大きさ、正確さに度肝をぬかれること受け合い。
オリジナルは消失してしまったそうだが、この当時の複写が残っていたのが救い。

他の風景画、特に江戸の街を描いたものはとにかく情報量が多い。
小指ほどの大きさで人々が描かれているのだけど、これがぎっしり詰まっている上、それぞれが表情豊か。まるで写真のような自然さ。
スコープで見ると、一部分がクローズアップされるので、当時の生活をのぞき見ているような錯覚すら覚える。

興味深かったのは狩野探幽のスケッチ。動かない動物(特に虫、蝶とか)は写真のような精密さだけど、なぜかカエルがイマイチだった。対象が動き回ると苦手だったのかもしれない。そういった意味では暁斎の動物全般のすさまじい再現度は、目の良さが尋常じゃなかったことがわかる。

あと虎の図版が、いわゆる大人の虎じゃないようで、総じて皆目が大きいことに気付いた。
たしかに大人の虎を捕まえることは相当に難しいから、見せ物として運び込まれた虎は若いのだろう。
だから顔つきが猫っぽいのだと思う。

気付いたら二時間近く経ってた。
当然図録も買いました。そういや、けっこうこの手の江戸もの図録も手元に増えてきたなあ。
眺めているだけで、ちょっと幸せ気分。
【2011/09/18 23:36 】 | たわいもない日記 | コメント(0) | トラックバック(0) |
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